サムライハート

道具が感情を持っちゃだめって、誰が決めたの?
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武田と伊達が同盟を結んで数日、政宗は未だ甲斐にいた。
そして、毎日のようにを追いかけていた。

「Honey!dateしようぜ!!」
「ハニーじゃねぇ!デートもしねぇ!!さっさと奥州へ帰りやがれ!!」

廊下をダッシュしながら、二人は攻防を繰り広げていた。
兵やは、近づくと怪我を負いかねないため早々傍観に徹している。

「What an unkind Remark!俺とhoneyの仲じゃねえか!!」
「どんな仲だよ!?とにかく来るな!俺は幸村の団子を買いに出ないといけないんだよ!!」
怪しく笑った政宗に、はキレ気味に怒鳴りながら城門へと駆ける。

「なら荷物くらい持ってやるよ!」
政宗との距離を縮める事が出来ずに城門を潜ったは、結局連れ立っておつかいに行くことになったのだった。

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幸村が所望する団子は甲斐でも人気の茶屋のものである。
既に列が少し出来ていたため、二人は並ぶ事になってしまった。

特に話す事もせずに待っていた二人だが、不意に政宗は口を開いた。
「おい。…は、猿が好きか?」

「…政宗、お前もなのか?」
何時ぞや佐助が似たような事を言っていたことを思い出し、は溜息を吐いた。
理由の知らない政宗は、暗くなったに訳がわからず首を傾げる。
「Ah?…この数日で分かったんだが、あいつかなりお前に執着してるから気になってたんだよ。You see?」
「執着?ないない!俺と佐助は仲は良い方だと思うが、執着とかする程までじゃないよ。」

政宗の言葉には無いと否定をするが、政宗がそれで引き下がるはずが無かった。
逆に、眼を見開いて驚き、を覗き込むようにして詰め寄った。
「Are you joking?猿とkissしかけていた時も、アンタ満更じゃなさそうだったぜ?」

「!?だから、それは驚いて身体が動かなかっただけで…。」
「じゃあ、俺がいきなりkissしてもお前は固まっちまうのか?」

「!?な、何言ってんだよ、お前…っ!?」
動揺して見せるに、政宗は彼女の腰を抱いて引き寄せた。
そして、空いている方の手での顎を上へと傾ける。

「…本気だ。俺は欲しいものは必ず手に入れる。お前みたいな女は初めてだからな、興味があるんだ。」
「…変わった趣味をお持ちで。いい加減手を離せ、往来の眼が痛い。」
冷たく言い放つに、政宗は溜息を吐いて顎にかけていた手を引っ込めた。

「…ほらな?お前があそこまで動揺するのは猿だけだ。俺みたいな好物件なかなか無いんだぜ?俺にしとけよ。」
「自分で好物件とか言うな。つーか、腰に添えてる手も離せよ。」
ここで政宗を殴ってもいいが、町人に被害が出てはいけないとはされるがままである。
それを分かっている政宗は、悪戯っぽく笑った。
「良いじゃねえか。それとも、あんまり免疫がねえのか?」

耳元で囁かれた政宗の言葉に、は赤面する。
図星だと語る顔を見て、政宗はニヤリと笑った。

「そうか。つまり、俺にもまだアイツの先を行く事が可能なわけなんだな。」



「そんな可能性あるわけ無いじゃん。竜の旦那、あんまりに悪戯しないでくれる?」
そう言った声の主は、を自分の方へと引き寄せた。
「!?…佐助!!」
「チッ…何時から居やがった?」
残念そうに舌打ちをする政宗は、タイミングよく現れた佐助を睨んだ。

「二人がこの店に並び始めた頃から?いやー、竜の旦那ってばに本気みたいで困っちゃうなー。…俺様妬いちゃって、竜の旦那殺しちゃうかも?」
後半の言葉は呟くような音量だったが、政宗の耳にはしっかりと聞こえた。
そして、それに込められる殺意さえも。

「!…お前、忍がそんなんで良いのかよ?色恋でそんなに感情に左右されてたら、簡単にお払い箱だぜ。」
「!」
己を制御出来ていないと指摘する政宗の言葉に、佐助は顔を歪めた。


「だから何?忍が感情を持つなって誰が決めた?非情になれとか言うなら、お前ら武将にもそれは言えることだろ。」
今まで黙って聞いていたは、政宗に咬みついた。
先程の比ではない程の冷淡な眼で見てくるに、政宗はたじろぐ。

「…言うじゃねえか。だが、お前には関係の無い話だろ?」
「ああ、関係ないね。」
の言葉に、佐助は一瞬顔を顰める。

「だけど俺は、そういう忍だから、武将だから、って変に縛り付けるのは嫌だ。そういう言葉は、じわじわと心を殺すんだよ。」
「殺す?何言ってんだ。心なんて、死ぬわけが無いだろう。」
の言葉に、訳がわからないと政宗は肩をすくませる。

「死ぬよ。俺だって…くだらない価値観やしがらみに囚われて、他人を信用せずに…を守るだけしか頭に無かった。虚無と孤独しか、心に無かった。」
「…だから何だ?忍は主人に忠誠を誓って、戦の道具として生きる。それが常なんだぜ?そうじゃなきゃ、忍として生きていけねえ。お前のそれとは、次元が違う。」
を鼻で笑う政宗は、忍の生き方を説くがはそれに首を振った。

「仕事だからって割り切るのは悪い事じゃないよ。でも、それを日常まで持ち出したらダメだって言ってるんだ。心が壊れる…佐助がそうなるのは嫌なんだ。」

雪名と睨み合っていた政宗だったが、ふっと息を吐くとつまらなさそうな顔で頭を掻いた。
「…There you go.お前、自分で気付いて無いだろ?」

「?何の事だ?」
「…教えねえ。まぁ、お前の考え方は好きだぜ。」
政宗の鎌かけに気付いていないは、首を傾げるばかりだった。

「…つまり、今のは何か試されていたのか?」
「…当たらざるも遠からじ、ってとこだな。それより、猿。」
呆れ半分で嘆息した政宗は、沈黙している佐助に近づいた。
そして、の耳を塞いだかと思えば、何かを佐助に耳打ちしてその列を離れた。

「じゃーな、。Date楽しかったぜ?」
「?…デートはしてない。帰るのか?」
の頭を撫でた政宗は、の言葉に頷いた。

「ああ。そろそろ街道の水溜りも乾いただろうからな。」
「泥はねとか気にする玉じゃないだろ。」

そう言って手を振って分かれた後、政宗が見えなくなった頃合を見て佐助はを抱きしめる力を、一瞬だけ強めてその手を放した。
気になったは口を開こうとしたが、佐助が先に言葉を口にしたためにそれは出来なかった。

「ダメでしょ?。竜の旦那はお殿様で手が早くて、口が上手くて、鬼畜でその上好奇心の固まりなんだから、ほいほい付いて行って何かされても文句言えないよ?」
呆れたような口調で言う佐助に、は重い息を吐いた。
「いや、躑躅ヶ崎館の中で撒くのに失敗して、結果的に一緒に城下に行く事になってだな…。別にほいほい付いては行ってない。」

「…アリガトね。何か庇ってくれちゃって、俺様感激?」
「庇った心算は無い。ただ、生き方を決め付けられるのが嫌いなだけ。」
そう言ってそっぽを向くの顔は少し赤くて、照れている事が丸分かりだった。

「うん。…さっすが、男前♪」
雪なの顔色に気付いていないふりをして、佐助はの頭を撫でた。
「…また、愛でてんのか?」
「ん?違うよ。これは、消毒。」
「は?」
訳がわからない、と言う顔をするに、佐助は笑うだけでそれには答えない。

「中々混んでるねー。もう少しかかりそう。」
「?ああ、そうだな。」
行列の先をみて、二人は小さく息を吐いたのだった。





『俺も本気になるぜ?』

政宗の言葉は、佐助の中にある何かを引っ掻き回す。

それに気付かないふりをして、佐助は目の前の幸せを噛み締める。


「(負ける気なんて、毛頭無いし。)」




                       おわり