その距離
『好き』って何だろう。
憧れているから、好き。
親しみがあるから、好き。
大切だから、好き。
愛しくて、好き。
恋が分からない私には、君の言う『好き』がどんなものなのか、想像するしかない。
あやふやにして逃げてる私は、君をどれだけ傷つけているんだろう。
・。・。・・。・。・。・・。・。・。・・。
1 信じたくない。
たちがBASARAの世界へと来て、三ヶ月が過ぎた。
帰るための手掛かりは一向に見つかる気配はなく、毎日文献などを調べて過ごしている。
今の季節は夏、蒸し暑い日々が続いていた。
「あ〜もうっ、嫌だ!」
「え?」
の双子の姉、はいきなり叫んだかと思うと、割り当てられている自室の床に大の字に寝転んだ。
それを見ていたは、訳がわからず目を丸くした。
「いきなり、何なんだ…?」
「暑いのはまだ良いよ?でも、何この雨。何日降れば気が済むの!?」
どうやらは、ここ数日降り続いている雨が気にくわないらしく、いつもの彼女とは比べものにならない皺が眉間に寄っている。
「寝癖は酷くなるし、気圧変化で身体はだるいし、…幸村は執務中だし、最近幸村が天然たらしの傾向にあるし…忌々しき事態だわ。」
「最後のほうの理由は不純だな。」
は、の言葉に内心どぎまぎするものの、表面上はいつも通りを装った。
幸村をそれとなく嗾けているのがだと彼女にばれたら、弓矢で射られるのは必死である。
「(ま、俺はと違って嘘は上手いからな…。)」
頭を抱えるを観察しながら、如何やらばれていない様だ、とは胸を撫で下ろした。
「ちょいと失礼しますよ、っと。」
同じような会話を繰り返していた頃、佐助が天井からするりと降りて来た。
「ノックもなしに女の子の部屋に入るなんて。佐助、オカン失格よ。」
の言葉に、佐助は理解出来ずに首を傾げるがそれよりも気になる言葉があった。
「のっく?…というかちゃん、俺様オカンじゃないからって何回言わせれば気が済むのかな?」
「自覚無しか…末期ね。」
「何がだよ。」
不適に笑うに、は呆れながらも突っ込み、佐助へと向き直った。
「は、入る前に合図が欲しかったって言いたいんだよ。かなり回りくどいけどな。」
「あ、そうなんだ?ごめんねー、ちょっと急いでるからさ。」
そう言っている佐助は、外が気になるのか、少しだけ外の様子を窺っているようだった。
「何々?急ぎって、何かあるの?戦では無さそうだけど。」
未だたち二人は戦を経験していないが、こんな急に準備を始めたりはしないだろうと踏み、は興味津々と言った様子で佐助に尋ねる。
「ん―…、あるって言うか、もう来ちゃうって言うか。兎に角、ふたりは暫くこの部屋から出ないでいて欲しいんだけど…良い?」
「来るって…もしかして伊達政宗か!!?」
そう言って声を上げたのは、珍しくだった。
そのは、興奮気味に佐助に近づく。
「何で分かっちゃうかなぁ!?そして、何で目がキラッキラしてるの、!?」
の反応に少しビビりながらも、佐助は突っ込むことは忘れない。
「この子、政宗好きだもん。」
にやり、と意地悪く笑うは、ゆっくりと立ち上がった。
その顔は、面白いものを見つけた、と語っていて、渦中へ飛び込む気満々だ。
「…は?」
「は、むこうの世界にいた時から、伊達政宗が、好きなの。分かった?」
そう言って、は部屋の外へと出て行った。
一々文節毎に区切って言うの言葉に、『政宗が好き』と聞いて固まってしまった佐助は、が出て行ったにも関わらず身動ぎすら出来なかった。
・。・。・・。・。・。・・。
Side 佐助。
『は、伊達政宗が好き』
ちゃんのその言葉に、息が詰まる。
胸の中に押し寄せる、言い知れぬ不安。
平常を装おうとも、ぎこちなくなる表情が嫌になる。
「う、嘘だろ?、竜の旦那好きなの?」
その声は、情けないことに震えていた。
自然と出てしまう、その人間らしい反応は忍らしくない。
でも、そんなこと今は如何でも良いんだ。
(俺様のことは?)
目の前には、機嫌の良さそうな。
自分も出て行きたいのか、入り口の方ばかり見ている。
(いつもよりも嬉しそうな笑顔は、竜の旦那に会えるから?)
「好きだよ!じゃ、俺も追いかけるから!」
そう言って出て行ってしまうを、俺様は止める事が出来なかった。
遠くなる押し音を聞きながら、を捕らえる事が出来ずに中途半端に出された己の手を見つめるしか出来ない。
なんなんだろう。
また、感情がざわつく。
最近頻繁に起こる、忍とは思えないほどの気の乱れに俺様は嘆息した。
昔ならば、に会う前ならば、こんな事になる事すらなかったのに。
たちと出会った初めの頃は、今とは違う意味合いで気が乱れていたけど。
最初の頃は、といるとドキドキしたり、笑顔や俺様だけに見せてくれる顔を見ただけで心が温かくなったりしたのに。
(最近の俺様は、訳が分からない。)
猿飛佐助という、忍ではない俺様をずっと見て欲しい。
いつかのような一時ではなく、ずっとこの腕に閉じ込めてしまいたい。
が他人の名前を口にするだけ、自分以外の誰かのことを考えているというだけでイライラして、怒りにも似た激情が沸き起こる。
少し前ならば、ちょっとでも近くに居られるだけで満足だったのに。
(こんなに、『好き』なのに。)
自分を見てくれているのか分からないを、いっそのこと壊してしまいたい。
そんな狂気染みた感情を振り払い、拳を強く握った。
「俺様は、の『特別』にはなれないって事なのか…。」
これまでどんなに好きだと言っても、溢れる思いを口にしても、それを返されることは無かったもんな…。
それは、伊達政宗と言う想いを寄せる人物がいたからだったんだ。
(何で、言ってくれなかったんだろう。)
Side 佐助終了。
・。・。・・。・。・。・・。・。・。・・。・。・。・・。
2 Show time!
は幸村の所在をすれ違う女中や兵士に聞き、鍛練場に急いだ。
が鍛練場へと足を向けていると、目的地の方から金属のぶつかり合う音と幸村の雄叫びが聞こえた。
そして、英語で挑発する男の声。
入り口に辿り着いたは、中にいる見知った人物に声をかけた。
「幸村!!」
「!?み、殿、何故こちらに!!?」
いきなりのの登場に大層驚く幸村。
「!Well, I declare!お前、女がいたのか?」
幸村と武器を交えながらも、意外そうに幸村を見やる右目に眼帯をした男。
伊達政宗だ。
「お…!?殿は客人でござる!!」
政宗の言葉に動揺するも、幸村はその言葉を訂正した。
「Guest?…じゃあ、お前が真田の忍、猿飛佐助と渡り合ったとかいう奴か!」
そう言った政宗は、嬉々とした様子で刃の標的を幸村からへと変更した。
「Play with me!」
「ぁ、え。ぅええぇっ!!??」
政宗の刀が、目掛けて振り下ろされた。
何が何だか分からないうちに攻撃され、咄嗟には手で顔を庇って目を瞑る。
その時、は誰かの手によって幸村の方へと突き飛ばされた。
「きゃっ??!」
「殿!大丈夫でござるか!?」
自分の方へと飛んで来たを幸村は無事に抱きとめ、その安否を確認すると己の背に隠した。
そして、政宗の方を警戒するものの、そこには。
「Who are you!?」
「に手を出した奴に、名乗る名前なんて無い!!」
政宗の刃を木刀二本で受けるがいた。
しかし、その内の一本は刀によって真っ二つになってしまったのだが。
「…おもしれぇ。お前だな、猿飛と互角だったとか言う奴は!」
「あぁ!?それが何だって言うんだ!!」
問いかけるに答えず、新たに技を繰り出してくる政宗をは何とか凌ぐ。
「如何した!?威勢が良いのは口だけか!!?」
「っつ!…嘗めんな!」
政宗の挑発には吼えると、既にボロボロになってしまった木刀を帯刀の構えにした。
「俺の本気、見せてやるよ…。」
先程までとは違い、何の表情も見えなくなったは、政宗に清々しいまでの純粋な殺気を向けた。
「…良いねえ、その目。マジで楽しめそうだ。」
構える政宗が、一瞬後ろに構える足に力を入れた。
その一瞬の隙、は抜刀して政宗の首を捉えた。
上手く隙を衝かれた政宗は、それを往なすことが出来ない。
その場の空気が凍りつく中、やっと現れた佐助は目の前の光景に目を丸くする。
「…如何いう状況?」
佐助の眼前には。
手前にを庇うようにして立つ幸村、その奥には目を見開いて立つ政宗。
そして、政宗の喉元に木刀を突きつける。
「…が私を助けて、伊達政宗を居合いで打ち負かしたところ?」
「う、うむ。誠に、見事な太刀捌きで…。」
睨み合っていると政宗を気にしながらも、と幸村が佐助に説明した。
その二人の反応は呆然としたもので、視線は睨みあう二人に向けたままだ。
そうしているうちに、政宗は手にしていた刀を納め、口元を歪めた。
「…OK.本気を出してなかったとは言え、俺から一本取るなんてな。やっぱお前、なかなかやるじゃねえか。That’s the gear!」
「…俺は気に入らないね。それよりに謝ってくれない?アイツ弓は出来ても、こういう実践的なのは不慣れなんだよ。」
そう言って政宗に冷たい視線を送るは、木刀は下ろしたものの未だに足の運びは崩さない。
それは、いつでも攻撃する、と威嚇しているようだった。
「そういった強気な所も良いねえ。如何だ、奥州で剣を振ってみないか?」
「…謝れ。」
青筋を立てるに、は焦りの色を浮かべる。
「?私は何ともないから、ね?それにほら、この人、伊達政宗だし。」
「Ha!その女にやたら執着してるんだな。…兄弟か?」
の声に被せるようにを挑発する政宗に、は突如嗤い出した。
「ふっくく…っ!執着、ねぇ…。それもあるかもね。でも、今それは関係ない。」
「…?」
いつもと違うの行動に、佐助は無意識にの名前を呼ぶ。
それに一瞬だけ瞳を向けるは、再び政宗を睨みつけた。
「それより、義を通せって言ってんだよ!!」
叫ぶや否や、は再び居合い抜きで政宗を捉える。
「二度も同じ手には乗らねえ!!」
の一撃を往なした政宗は、逆にの懐に潜り込む。
「Let’s finish up!」
政宗が六刀の残りを抜刀するのが見えたは、再び嗤う。
「That’s you!」
先程上に弾かれた剣筋を、は横へと薙ぎ払うように振るう。
それは、丁度政宗の側頭部の位置にあった。
・。・。・・。・。・。・・。・。・。・・。・。・。・・。
3 悪い?
崩れ落ちるようにして倒れる政宗を見て、は長い一息を吐いた。
「暫く眠ってろ、cockscomb!」
「…キレタのかと思った。」
あからさまにホッとするに、は苦笑した。
「俺が…?まさか、昔じゃあるまいし。それに、真剣勝負で天下の伊達男に適うわけがないだろ?」
の言葉に、聞き捨てならないと真田主従は食い下がった。
「でも、…現に竜の旦那伸してるわけだし?異国語も堪能なようだし?」
「うむ。それに、先程の太刀捌きは如何いったものなのでござるか?上杉殿の技と似ていたようでござりまするが!!」
何処か不貞腐れた様子の佐助と、目を輝かせる幸村はに詰め寄る。
「え?居合道って確立してないの?」
未だ幸村の後ろをついて、政宗を気にしながらもも近づいて来た。
「…この世界は史実とは違うから確かな事は言えないけど、居合いの確立は多分もう少し後の時代になると思う。これは床の間を想定しての術だから、上杉の技とは違うと思う。あと…異国語は、俺もも少しだけ話せるぞ。」
の説明に、と幸村は成程と頷いた。
ただ一人、佐助だけは納得行かない様子でを見ている。
「ふうん?じゃあ、何で話せるの?」
いつもの調子では無い佐助に、は身を硬くした。
佐助に薄ら寒い雰囲気を感じ取ったのだ。
「は…?だって、さ。俺たちの時代じゃ、当たり前に教えられてるから。」
「本当は竜の旦那が、何か関係してるんじゃないの?」
何か疑われているのかと思っていたは、佐助から言われた予想外の言葉に訳がわからず、思わず眉間に皺を寄せた。
「?何でそこで独眼竜なんだよ?」
「好きなんだよね?そこで伸されてる竜の旦那が。」
「??それはそうだけど。」
政宗を指差す佐助は、何処か浮かない顔をしていて。
何が言いたいんだ、とが目で訴えても、佐助は表情を曇らせるばかりだった。
「ほら、やっぱりそうじゃん。」
「…さっきから、何が言いたいんだよ?」
いじける佐助に、は段々イラついてきた。
佐助が取る行動の意図が、一向に見えないのだ。
「政宗も好きだけど、慶次も片倉も風魔も上杉も竹中も島津も、刀を使う奴は基本的に好きだけど。だから、それが何?」
「!!」
「、それ今言っちゃダメだから。佐助は別の意味に取っちゃってるからね?」
の発言に、佐助はとうとう俯いてしまった。
それを見たは、妹の鈍感さに内心頭を抱えるしかない。
「佐助、の言った『好き』は気に入ってるって意味だから!『恋』とかの好きって意味じゃないからね!?」
「…本当に?」
佐助を励ますように声をかけるに、佐助は顔を上げた。
しかしその目には、覇気どころか精気すら宿っていないようだった。
忍としての仮面が剥がれてしまっている佐助を見たと幸村は、眼で会話をして頷きあった。
「…よし。幸村、政宗を何処かに寝かせてあげようよ。ってことで、私たちは政宗寝かしに行くから!」
「そうでござるな。佐助は殿と後から来るのだぞ!」
「え、ちょ…待ってよ!?」
佐助たちに有無を言わせず、と幸村は政宗を引きずって出て行ってしまった。
・。・。・・。・。・。・・。・。・。・・。
鍛練場に残された二人は、何処となく気まずい空気に包まれていた。
重い沈黙が流れる中、先に痺れを切らしたが口を開いた。
「…さっきから、何なんだよ?独眼竜を引き合いに出したりして。」
ちらりとを見たかと思えば、その目をそらし言い辛そうに唸ったあと、佐助はその口を開いた。
「…だって、『好き』なんだろ?それは、男として好きって、慕ってるってことなんじゃないの?」
恥ずかしそうに顔を逸らす佐助に、は頭の中でその言葉を反芻する。
そして、言葉の意味が分かるや顔をこれでもかと赤らめた。
「もしかして、それが気になってた…のか?」
「悪い?…は『特別』だから、気になるんだ。」
真剣な目で見てくる佐助は、を逃がすまいとその手を掴む。
の手にあった木刀が音を立てて落ちた。
「には、俺様だけを見ていて欲しいから。」
「ぇ…!!?」
そう言ってゆっくりと顔を近づけてくる佐助に、は目を見開いた。
握られていた手とは別に、空いていた方の佐助の手はの背後に回っていた。
嘘だろ、この状況は何だ、とはそればかりが頭を駆け巡るだけで体が上手く動かない。
しかし、佐助のその行動は達成されることはなかった。
「お前ら…loversだったのか。」
二人きりだった修練場に、不意に男の声が響いた。
「!!?!り、竜の旦那…っ!!?」
油断していたのか本気で驚いている佐助と、佐助から距離をとる。
その二人の顔は、赤い。
超至近距離にいた二人に、再び現れた政宗は明後日の方向を眺めた。
その顔には、何故か冷や汗が浮かんでいる。
「さっきの事で謝ろうと思って来たんだが、何か邪魔したみたいだな。…悪かった、お前らがpederastとは知らなかったぜ…。」
政宗を追いかけて来ていたは、彼の言葉を聞いて青褪めた。
「ま、政宗…それ、そういうのはの禁句…っ!!」
「Ah?taboo?」
の言葉に政宗が反応していると、その脇を何かが掠った。
「!?な、何だ!?」
何が起きたのかと、掠ったものを見るために振り向くと。
壁に木刀が刺さっていた。
「男だと間違われるのには慣れたけどね…さっきから、お前は何?人のこと、自分の杓子定規で見てんじゃねえよ。」
投げたらしい人物、は俯いたまま、地を這うような声をだした。
「には刀向けるし佐助のことは誤解するし…侮辱してんじゃねえぞ、独眼竜。」
「な、ど…如何いう意味だよ?!」
そう言って顔を上げたの目は据わっていて、政宗しか見ていない。
そんなに圧倒される政宗を他所に、佐助は彼女の肩を掴んだ。
「まあ落ち着きなよ、。誤解って、竜の旦那は何て言ったの?」
「…佐助は男色家で、その相手は俺みたいだな。」
聞かれたは、言い辛そうに口を開いた。
の言葉に、佐助は目を見開くものの、何故かニヤリと笑った。
「ふうん…まあが相手なら、別にこのまま誤解されてもいいケドね。」
「「はぁ!?」」
佐助の言葉に、双子は目を剥いた。
「佐助、落ち着いて。そんな侮辱される謂れなんてないんだから。」
「そうだよ。佐助を侮辱したんだから、赦しておくべきじゃないだろ?」
双子に言い寄られても、佐助はニコニコしていた。
「あはー、を独り占めできるならそれでもいいよ。」
「!!」
それを聞いたは固まり、は途端に呆れたような目を向けてきた。
「ああ…ノロケ?はいはい、ご馳走様でした。」
「やっぱりくっついてんじゃねーか。」
「くっついてないから!!何言ってんだお前ら!?」
と政宗の言葉に赤面しながらも異を唱えるは、あまり説得力がない。
それを見た佐助は途端に影を落とした。
その顔には哀愁が漂っているものの、何処かからかいの色も見える。
「…俺様じゃ、ダメなんだ?」
「!?お、お前ら…っ、俺をからかうな!!」
そう言って堪えられないとばかりに出て行ったに、佐助は切なそうな瞳を向けていた。
・。・。・・。・。・。・・。・。・。・・。・。・。・・。
4 勘違い。
「…あいつ、女だったのか。」
「そうですよー。しかも、何か身体能力が上がってるもんだからかなり強いしね。」
が出て行ったあと、政宗と、真田主従は広間で事の経緯を整理していた。
正式な話し合いではないため、幾分砕けた姿勢で話しているのだ。
「しかし、殿には驚かされてばかりでござる。実戦には出たことがないと言っておられたのにあの殺気…。かなりの修行をなさっているのであろうな。」
幸村は先ほどの政宗とのやり取りを思い出し、感嘆しているようだ。
「あはは…あれは、喧嘩の賜物だよ。」
それに答えるは苦笑した。
「喧嘩?」
佐助が疑問を声に出すと、は目を伏せて思い出すように話し出した。
「は好戦的な面があるからね…。それで正義感も強いから、虐められてる子がいたら助けるために飛び込んで行っちゃったりしていたの。」
「ああ…みたいだな。」
の言葉に、政宗はと対峙した時のことを思い出した。
「そのくせ、助けて自分の立場が悪くなっても何も言わないから、色々誤解されることが多くて。踏んだ場数も多いから、何時の間にか誰も寄せ付けないようにああいう殺気とか身につけちゃって…。」
悲しそうな笑みを浮かべるは、己の手を強く握り締めた。
「殿…。」
その様子を見ていた幸村が声をかけると同時に、廊下側の襖が開いた。
「人の過去を勝手にベラベラ喋るな。」
そこに立っていたのは、少し不機嫌そうなだった。
「!…ごめん。」
暗い表情でが謝ると、は苦笑を漏らしての頭をポンポンと軽く叩いた。
「…アンタに謝られると、調子狂うよ。」
「む。偶には私だってしおらしくなるよ!」
そう言ってにからかわれるは頬を膨らませる。
完全にいつもの調子に戻ったに、幸村はホッとした。
しおらしいしか見ていなかった政宗は、彼女の子供のような振る舞いに内心驚いていたが。
「!何処に行ってたんだよ!?」
佐助が問い詰めれば、は頬をかきながら答えた。
「あー…。鍛練場の修復。自分で壊したからには、自分で直すべきだと思ってな。」
どうやら一人で直していたらしく、時間がかかってしまったらしい。
・。・。・・。・。・。・・。・。・。・・。
話の区切りが見えたところで、政宗はに向かい姿勢を正した。
「…とか言ったな。さっきは、悪かった。」
「いや、別に。や佐助に謝ったんならそれでいい。」
謝罪する政宗に、は照れたような、恥ずかしそうな顔をするも、言葉だけは素っ気無いものを出した。
政宗は、それに頷くとここからが本題だ、と真剣な顔つきになった。
「…本題だが、俺はアンタをscoutしに来た。奥州に来る気はねえか?」
「!政宗殿、それは…!」
「幸村、私たちが口出しすることじゃないからね。」
幸村が待ったをかけようとしたが、がそれをさせなかった。
佐助は如何いうわけか、静かにたちを見つめている。
それをちらりと見やりながら、政宗は話を進める。
「京の一件を聞きつけてから、アンタ宛に何回かそういった内容の文を送ったんだがな。幾ら待っても返事が来ねえから、今回は俺が直接来たんだ。」
正宗の言葉に、は目を丸くした。
「文?そんなの届いてないけど。」
「お前の手に渡る前に潰されてたみたいだな。ま、犯人は何となく分かったぜ。」
そう言った政宗は、お前だろ、とばかりに佐助を見る。
佐助は知らぬ、存ぜぬといった表情を作っていたが。
「で?如何だ、。うちで刀を振ってくれねえか?」
真剣な表情でを見る政宗に、佐助は冷たい目を向ける。
「を、戦に出す気?」
「いや、女を戦場に出す気はねえ。そんなのはcoolじゃねえからな。」
佐助の言葉に、政宗は初めはその心算だったが、と言いながらも否定する。
「…指南役、とかいうやつか?」
が話に乗ってきたので、政宗は嬉々としてそれに答えた。
「Yes!それに、俺たちが戦に出ている間、城を守って欲しい。」
それを聞いて、は考える素振りを見せた。
を見た政宗と佐助は、不安そうに眉根を寄せる。
どちらに転ぶか分からないに、その場は緊張の色を見せた。
「…俺は自由が好きだ。今みたいに、ずっと誰かの世話になるとかいうのは好きじゃない。」
そう言葉を漏らしたに、政宗は顔を輝かせた。
「!なら奥州に…っ!」
「…だけど俺は、ここの人間に恩がある。それを返せていないのに他の地になんていけないね。それこそあんたの言うcoolにはならないだろ?」
のその言葉に、政宗は落胆の色を見せた。
「…義理堅い奴だな。だが、そういうのは嫌いじゃねえ。」
そう言って苦笑を漏らす政宗に、は悪い、と謝罪する。
「やっぱ、アンタ気に入ったよ。…真田、武田のおっさんとこに案内しろ。」
「!な、何故、お館様のところへ?」
突然の謁見申し込みに、幸村は警戒の色を見せる。
「こんな面白い奴がいんのに、戦じゃこいつとは手合わせ出来ねぇだろ?…同盟組めば何時でもここに来れるからな。」
「!!ならば、案内致す!」
同盟を提案してきた政宗に、彼以外の四人は驚いた。
しかし、願ってもみない申し入れに、早速と幸村と政宗は席を立った。
すれ違い様、政宗はの耳元で囁いた。
「…猿に飽きたら何時でも来い。アンタみたいなのは、俺も大歓迎だ。」
「!!?だから、佐助とはくっついてない!!そんなの、ありえないから!!」
「そこまで言っちゃう…?」
赤面して否定するに、佐助は落ち込む。
「Ah?でもkissして良い雰囲気だったけどな…。」
自分が見た光景を思い出して言う政宗に、はぶんぶんと首を振る。
「してねぇよ!!未遂だし、あれは気が動転して身動きが取れなかっただけで…っ!!」
政宗の言葉を聞いたは、若干白い目でを見た。
「…何だかんだで、佐助とそんなことまで?」
「だから、ちっがーう!!」
激しく勘違いをする政宗とに、は悲痛の声を上げるのだった。
加速する想いと、気付かれない気持ちは交差する。
同じだったものが崩れ始めた音は、
それは、ガラス玉が亀裂を生じたような
小さな、確かなひび割れだった。
おわり