カルマのふたり

その日の夜。
早めに入った宿屋で、たちは各々寛いでいた。

は、昼から気になっていた事をに聞いた。
、どう思う?」

「…佐助のこと?」
の言葉に、は頷いた。
それに、は苦笑する。

「二人ってホントに何か似てるね。朝も佐助が私にそんな感じで聞いてきたよ。」
「はい?」

言外に疑問を含ませて聞くと、は続けて教えた。
が機嫌悪いの如何して?って。」
「…何か、気遣いすぎだな。あの人。もっと飄々としてると思ってた。」

「あー。ゲームだと感情だとかそう言うのって分かんないもんね。」
「アンタはそれでも幸村が好きだったじゃないか。」

「だって初心だもん。純粋だもん。」

「だもん、て…。ちょっと行って来る。」
の言葉に少々呆れるは、溜息を吐いて立ち上がった。

「じゃ、私は幸村のところに行って来よう♪」
二人は、方や宿屋の庭、方や幸村の泊まっている部屋へと歩みだした。

・。・。・・。・。・。・・。・。・。・・。・。


たちの泊まる宿屋は、とても広いものだった。
中庭も立派で、四季折々の草木が植えてあった。

それを臨む縁側に、目的の人物は鎮座していた。
「…主人から、離れて良いのか?」

、ちゃん。…やっぱり侮れないね。俺様の背後取るなんて。」
「…俺は強いからな。」

はそう言って、佐助の隣へ静かに腰を下ろした。

「気になってたんだけどさ、如何してちゃんはそんな喋り方してるの?」
「…は可愛いだろう。」

「は…何、いきなり?」
突然、姉を褒め出したに佐助はワケが分からず、一瞬ポカンとした。

「可愛い姉。出来の良い姉。妹思いの姉。…俺は、を引き立てる道化に過ぎない。」
「だから、男みたいに振舞ってるって?」
瞳を閉じて言うに、佐助は少し緊張した。

普段、少しも見せない弱い部分に踏み入るのに、戸惑いを感じたのだ。

「それも理由の一つって事だ。言っとくが、別にが嫌いなわけじゃないぞ。寧ろ可愛くて仕方ない。」
「姉馬鹿か。」

しかし、思ってもみない事を言われ、佐助は思わず突っ込んだ。
それに否定することも無く、は頷いた。

「悪いか?…ある意味、依存してんのかもな。」
そう呟くの瞳は、暗い影を落としていた。

「…アンタに憧れてたっていうのもある、なんて言ったら如何する?」

不意に、ニヤリと笑って佐助を見てくるに、佐助は心臓が跳ねた。

「ん、ん?如何いう意味?」
表は平静を装い動揺を出すことは無いが、佐助は自身の心拍数が上がったのを感じていた。

「そのまんまの意味だよ。」

そう言って微笑むは、とても綺麗で。
佐助は、先程とは比べ物にならないくらいに高鳴る鼓動に、戸惑うばかりだった。

「だから、アンタが元気無いのは放っておけない。」
「お、男前だね。ちゃん…っ。」

熱くなる顔に、佐助は顔を逸らしながらはぐらかす算段を始めた。
「教えてよ。佐助。」
「!!」

初めて彼女の口から呼ばれた自分の名前に、佐助は目を見開いた。
そして、気付いた。

相手は自分よりも数枚上手だと。

ちゃん、それはずるいよ…っ!今、名前呼ばなくても!!」
「取り敢えず、その『ちゃん』付けやめて。…ずっと気になってたんだけど、やっと言えた。」
相当気になっていたのか、は満足気な様子だ。

「…分かった。それに、もう元気だから、ね?明日も早いんだから、もう休んだら?」
何とかこの場を乗り切ろうと出した佐助の提案に、は少し考える素振りを見せた。

「…今回は見逃すけど。あんまり、無理するなよ?」
「っ!!わ、分かった。」
そう言って、その場を後にしたの後姿を、佐助は見えなくなるまで見つめていた。

・。・。・・。・。・。・・。・。・。・・。・。


『あんまり、無理するなよ』

道具の忍ではなく、佐助という人間に掛けられた言葉。
それは、とても温かくて。

優しくて。


「嬉しいねえ、全く。」

慣れない気恥ずかしさと、心地よさを佐助は感じた。
ありふれた言葉なのに、今までここまで佐助の奥深くまで響いたものは無かった。

(この気持ちの正体は、人間らしい『心』なのかもしれない。)
・。・。・・。・。・。・・。・。・・。・。
3 不器用な器用さ。


甲斐へと辿り着いた一行。
躑躅ヶ崎館へと足を踏み入れたたちは、目の前で繰り広げられる光景を唯呆然と見つめていた。

「お館様ぁああっ!!」
「幸村ぁああっ!!」

武田信玄を間近で見てから、十分と少し。
殴り愛が始まってから、十分と少し。

つまり、出会い頭から濃い師弟のコミュニケーションを見ている。

「ごめんねぇ、お二人さん。そろそろ終わると思うから、もうちょっと待ってて。」
「…体験してみないと分からないことってあるもんだねえ。」
始めは目を輝かせていたそれを、も流石に飽きたのか、ぼんやりと眺めていた。

「…止めてみようか。」
「えぇ!?落ち着いて、!本当にもう終わるから、ね?!」

我慢出来なくなったのか、渦中に飛び込もうとするを佐助は必死で止める。
あの中に入って、無事でいる人間などいないのだ。

そういっている間にも殴り合いは終わったらしく、信玄がこちらに近づいてきた。
…一方の幸村は、外壁に身体をめり込ませていた。

「主らか?幸村の言っておった異邦人とは。」
「あ、はい。そうです。」
「…いつ、そんな話できたんですか?唯殴り合っている様にしか見えなかったんですが。」
素朴な疑問をが口にすると、信玄は事も無げに言ってのけた。

「それが師弟と言うものよ。」

「「(絶対違う…っ!)」」

が内心突っ込んでいると、何時何処から持ってきたのか、大工道具を担いだ佐助が現れた。
二人が思っていることが分かったのか、苦笑を浮かべている。

「マジで伝わってるから、あながち違うとも言い切れないんだよねえ。ま、深く突っ込まないでいてあげて?」
「「ははは…。」」

佐助の言葉に、乾いた笑いを漏らす二人だった。

・。・。・・。・。・。・・。・。・。・・。・。


改めて、場所を信玄の座す部屋へと場所を移し、たちは話をしていた。
「ふむ…。では、帰る方法とやらは分からないのか。」
「はい。こちらへ来た方法もよく分からないので…。」

親身に話を聞く信玄に、説明しているのはだ。
は、一言も発する事無く信玄を見つめている。

「では、これから如何する心算だ?」
「…分かりません。ここへ来たのは、幸村のご厚意に甘えて、ですから。」
信玄の言葉に、は考えていなかったと項垂れた。

「お館様。某、お二人を客人として招こうかと考えておりまする。」

「…何?幸村が、女子を招くと?」
信じられない、と信玄は控えていた幸村に目を向けた。

「右も左も分からぬ者を放っておくなど、某には出来ませぬ。」

迷いの無い幸村に、如何したものかと信玄は幸村の傍に立っている佐助を見た。
「…佐助。お前は、如何考える?」
「俺様ですか?…そうですねえ。」

じぃっ、と二人を見つめる佐助の瞳は何時ものそれではなく、忍の冷たい目をしていた。
「間者ではないと思いますよ?は強いですけど、二人とも嘘をつけるような性格してませんから。」

何時もの笑顔でそう進言する佐助に、信玄は頷くと二人へと目を戻した。
「では、お主らの身はこの武田信玄が保障しよう。」

「!ありがとうございます!!」
信玄の言葉に、は喜ぶ。

「良かったでござるな!殿、殿!!」
と幸村が喜んでいるのを横目に、は浮かない表情をしていた。

「如何したの?…何か気になる?」
「…いや。」

言葉を濁すに、佐助は首を傾げた。
「そう?何かあるなら気軽に言っていいから。」

「…本当に、何でもないんだ。」

そう言って、荷物を佐助に任せて一人先に席を外した


何故、が浮かない顔をしていたのか。
何故、一人先に出て行ったのか。

佐助は、知る由もなかった。

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一刻経っても、は帰って来なかった。
如何したのだろうか、とたちが心配し出したので佐助は探しに出たのだが、城内には見当たらない。
「もしかして、城外に出た…?」

まさか、と思いながらも門の見張りに訊いてみると、やはり出て行ったらしい。

「ちょ、嘘だろ…!?」
城内なら未だしも、外に出られたら探すのは骨だ。

忍隊を動員するか、と考えながら思いつくままに探してみるも、城下にはそれらしい人物を見たものはいなかった。

城下でないのなら、途中にある森だろうか。
そう思い、佐助は必死に森へと駆けた。

森の最深部。光もまばらにしか差さない場所。
そこに、はいた。

その後ろ姿を見た佐助は、やっと見つけたことへの安堵と、心配させたことへの怒りが混在していた。

「なーにしてんの?。」

感情を昇華させようと思い、ちょっと脅かしてやろうと、物音も立てずに彼女の正面に降り立つ佐助。


「!…?」

「…見るな。」

佐助は、目を見開いた。

は、泣いていた。


「え、何。如何したの?!」
「うるさい。…放っておいてくれ。」

顔を背けるからは、今までとは比べ物にならない程の拒絶。
一緒に過ごした時間は僅かながらも、多少は打ち解けたと思っていた佐助。

しかし、それは勘違いだった。
彼女の泣いている理由が、自分には見当もつかなかった。

・。・。・・。・。・。・・。・。・。・・。・。
Side 佐助


不可抗力とはいえ、の弱い部分に、また踏み込んでしまった。

こういった場面での、対応は分かっている心算だ。
でも、それは忍として。仕事として。道具として。

(『人』は、こういう時如何やって慰めるんだろう。)

俺様は、戸惑いながらも目の前の人物を掻き抱いた。
それに対しての拒絶的な反応が無くて、少し安心した。

「泣かないでよ…本当に、如何したのさ?」
自分は、彼女の泣いている理由が分からない。

何がいけなかったのか、そればかりが頭を廻る。

少し、迷うかのように視線を揺らす彼女は、それでも口を開いてくれた。
「…俺は、みたいに、人懐っこくない。」

「ん?」
また姉自慢?と軽く返せば、は首を僅かに振る。

「何時も、他人とは境界線を引いてきたから。」

その言葉に、何となく俺様はの言いたいことが分かった気がした。
それは、自身も抱いていることだから。

「温かくされると、如何すればいいのか、わかんなくなる…っ!」

涙を流すは、きっと、不器用なんだ。

「だから、ここは、『分からない』んだ。」

普段が強くて、物事に動じないと思っていたから。
見逃していたんだ。

「幸村や信玄公に、厚意をみせられると、自分が分からなくなる…っ。」
「…は、本当に俺様と似てる。」

(何なんだ?この気持ちは。)

泣かれるのは、厄介だ。
何時のならそう思う自分は、何処にもいなくて。

「きっと、似てるからお互いのことが良く見えるんだね。」

変わりに、温かい気持ちが溢れてくる。

「普通なら、放って置く筈なのにね。」
「っ、だったら…!」

放っておけ、と言いそうなは酷く脆くて。
この気持ちを、どんどんと加速させる。

「やーだね。」

俺様を押し返す、その腕を掴んで笑えば。

は、俺様の『特別』だから。」


(今、自分は笑ってる。)
忍としての、作り物ではない。

本当の、『笑顔』を。

Side 佐助終了。
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『特別』

その意味が分からなくて、は佐助を見れば。
何時もの貼り付けた笑みでは無い。

何の計算も存在していない笑顔があった。

「―…、ずるい、だろ。それは。」
自分の頬に集中する熱に、それを見られたくなくて、は顔を俯かせた。

「ずるいのはだよ?俺様、忍なのに。いつか、は帰っちゃうかもしれないのに。」

再び埋められる距離。
抱きしめられるは、先ほどまでの涙はもう引っ込んでいた。

「出会って、たったの数日なのに。簡単に、俺様を魅入らせる。」
「!?は、何…を。」

語弊があるんじゃないのか、と顔を上げてが言えば、佐助は首を振る。
「…普段なら口が回るのに、こういう時何て言うのが適切なのか分かんないんだけどさ。」

少し頬が赤い佐助は、それを隠そうともせず照れたように笑う。

「多分、好きってことなんだと思う。」
「う、ぇ…!?」

この佐助は、一体何なんだ。

忍では無い、一人の人間としての佐助は、やさしく笑う。
「不器用でいいよ。そのまんまのがいいからさ、一緒に帰ろう。」

旦那たちのところへ。
そう言った顔は、もう忍のそれに戻っていて。

「分かんないなら、俺様が教えてあげるから。」
抱きしめていた腕は解かれ、代わりに繋がれた手。

「もう、一人では泣かないでね?」

その言葉に、は静かに頷いていた。


「ん。いい子だね。」
「…ガキ扱いすんな。」

何時もの調子で言ったは、顔は照れたように赤い。
それを見た佐助はニヤリと意地悪に笑った。
「やだなぁ、これは愛でてるんだよ?」
「!!」

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そのあと、城に帰った佐助の頬には綺麗な手形がついていたらしい。

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4 真っ赤な空。


がBASARAの世界に来てから、早くも三ヶ月が経っていた。

はその知識の豊富さから、幸村や信玄とよく話をするようになっていた。
内容は、今日の出来事や他愛も無い話、政治や経済、果ては戦まで。

一方のは、その身体能力の高さから色々な雑務を佐助とこなしていた。
しかし、余りにも壁や床を壊しまくる師弟に、雷を落とすこともしばしばある。

それなりに毎日を過ごす二人。
未だ帰る方法は見えないが、決して諦めたというわけではない。


「あんまり遠くばっかり見ないでよ。」
危ないよ?と言う佐助に、は笑う。

「だって綺麗だろ?俺、夕日が一番好き。」
「だからって、屋根に上ることもないでしょうが。」

口では悪態を吐くものの、佐助もその隣で沈み行く光と、迫り来る夜を眺めた。

「…俺、ここに来てよかった。」

「何?いきなり。」
改まって言われた言葉に、佐助は首を傾げる。

「帰るのを諦めたわけじゃないけどさ、もし帰れなくても、ここには居場所があるから。」
そう言って佐助に微笑むは、出会った頃のような脆さはもうなかった。

「んー、俺様は帰って欲しくないなぁ。」
寂しそうに笑う佐助も、大分人間くさくなった。


二人は、出会ったことで変わった。

その変化は、出会わなければ成りえなかった事。

「それじゃ、頑張って帰さないようにしなよ。」
悪戯っ子のように笑うは、佐助から離れると屋根から飛び降りて去っていった。


「…こりゃ、骨が折れそうだ。」

そう言って、一人微笑んだ佐助もを追いかけるようにその場を後にした。



似ているような

鏡のようなふたり。

その出会いは、必然だったのかもしれない。



                             おわり